病床数60床のD病院。病院の建物が建築から約40年を経過し、老朽化による毎年の修繕費用の増加、必要な諸室や面積が不足していることから建替えが必要となっていました。地域連携室、患者や家族への説明用の個室(IC室)、会議室、スタッフの更衣室や休憩室などが確保できていないうえ、リハビリ部門の面積が十分にとれていないことからリハビリテーションの実施に問題が発生していました。病院の経営幹部の間では、全面建替えが必要という認識は一致していましたが、簡単に結論を出せない事情がありました。立地が山間部であることから、診療圏は限定的で、現在の病院規模や機能を維持しD病院単独で生き残ることは非常に難しい状態でした。地域状況を踏まえた検討D病院の医療圏では、既存の病床数が基準病床数の倍近くあり、病床にかなり余剰が出ている状況でした。特に急性期の余剰病床が大きく、回復期への転換が必要と考えられました。環境分析プラン立案(現状のまま建替え、縮小して建替え、統合建替え)統合プランのための内部資源分析分析のまとめ、方向性の決定地域医療構想のあるべき姿として、他病院との統合再編を選択地域の患者数減少、救急機能の維持、スタッフの確保、建物の老朽化といった課題のすべてに対応できることから、他病院との統合再編を選択することになりました。以前より、D病院には、町の残り2つの病院との統合の思惑がありました。そのうちのE病院も、地域の人口減少などの影響を受け、患者数は減少、スタッフの確保も難しくなっていました。E病院を巻き込んで一緒に建替えるというプランは、地域の実状から考えてメリットがありました。スタッフ確保は1つの病院で考えれば解決しやすいE病院はスタッフの確保に苦労していましたが、D病院では比較的若いスタッフを確保できていました。現状のスタッフが新しい働き方を取り入れ、それに魅力を感じた若い人がさらに入ってくるというよいサイクルができていました。そのため、人材確保の面で、E病院のメリットが大きいと思われました。意思決定に繋がる議論を進めることができたスタッフ確保が難しい地域において、それぞれで当直体制を維持し救急の患者を受け入れるよりも統合した方がよい結果となるという予測が、関係者の合意に繋がり交渉が大きく進みました。今回のケースのように、統合プランは地方で検討しなければならないケースが増えてきます。しかし、建築費を補うために一気に借入が増えると、小規模病院では返済の見込が立たなくなります。他の病院と統合したうえで適正な規模にするというプランは検討に値する選択肢でした。地域の人口の将来推計、患者数の見込み、さらにスタッフをどう確保していくのか、収支予測だけでなく、それらのバランスを総合的に考えて方針を決めていくことが求められるところに、病院建替えの難しさがあるのです。